よろずを継ぐもの

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奈良県生駒市 和北堂 谷村丹後

もの作りの現場から
第4話
2024.5.1
海外に住んでみたり、頻繁に海外出張へ行ったりしている知人ほど、日本文化について熱心に勉強をしている気がします。みんな口をそろえて言うのは、海外の方と交流するときに歴史でも文化でも、そして世界的に報道されるニュースでさえも、「日本人ならどうするの?」「日本ではどう報道されているの?」とたずねられたり意見を求められたりすると。また、訪日外国人の体験価値を求める流れはますます加速していて、今やKimono、Manga、Zen、Bonsaiなど日本独特の文化や感覚で生まれた単語はそのまま世界で使われています。生活圏にとどまらず、世界から見る日本とは⁉と視野を少しだけ広げてみた時、「本当に私は日本の事をあまり知らないな…」と、そんな自分が少し恥ずかしくなる今日この頃です。
茶道の授業があった高校時代からうん十年ぶりに和菓子と抹茶をいただきました。「お茶」と聞くとまず真っ先に私の頭に浮かぶ「お茶を点てる」手もとのシーン。その手には茶筅、もう片方の手には茶碗をといった茶道の代表的なイメージです。今回伺った奈良県生駒市高山は500年以上にわたり日本の茶筅作りの唯一の産地であり続ける由緒ある町、そして谷村家は江戸時代に徳川幕府によって名字を与えられた茶筅師十三家のうち現存する三家のひとつなんだそう。そうお話ししてくださったのは、茶筅作りの一子相伝である秘伝を習得している谷村家の20代目当主 谷村丹後氏です。
現在、茶道のホスピタリティは日本人の国民性とも称される「おもてなしの精神」そのものであり、誇るべき文化だと言います。現に今回訪問させていただいた和北堂 谷村丹後氏のもとには国内外の著名人や観光客がわざわざ高山まで訪れては、ものづくりの現場を見て、日本の文化に触れる体験を楽しまれていくのだそう。日本人の私でさえも広い和室に緊張感のある作業場、グラフィカルな造形美が美しい大小の茶筅を目にして背筋が伸びる思いがしました。

奈良県生駒市 和北堂 谷村丹後

高山茶筅の歴史が裏付けるもの

今回の和北堂さんへの訪問が決まった時から私の頭の中ではずっとTikTokで大バズリしたエグスプロージョンの「千利休」がエンドレスループしていました。茶の湯、茶室、侘び寂び、そして「お茶」と言えば千利休、千利休と言えば「お茶」と大昔にきっと習ったのであろうそのイメージが固くこびりついていたのです。
しかしお話を伺うと千利休の時代のずっと前、室町時代末期には侘び茶の祖と呼ばれる村田珠光が禅と茶を結び付け、中国製の高級な唐物だけではない、和物との調和を図る「侘び」の美意識を確立させたと言われています。そしてその村田珠光のアドバイスを得て茶筅が創案されたと伝えられているんだそうです。創業500年、20代続く谷村家はその茶筅作りの技法を受け継いでおり、その後の茶道の人気と共に需要が高まり、私たちのよく知る豊臣秀吉や徳川幕府によって保護産業とされ、徳川将軍家御用達茶筅師として『丹後』の名が記録されるほか、公家、諸大名への納入の際に使用された『何々御用』と書かれた木札や提灯箱が残されていると言います。

奈良県生駒市 和北堂 谷村丹後

現代ではエコな素材とも注目される身近な素材 “竹” 

茶道具と言えば竹が多く使われているイメージを持っていましたが、その中でも竹製の茶筅は、その7割が「淡竹(はちく)」という種類の竹で作られているそうです。
流派などによりその竹の種類も異なり「淡竹(はちく)」、黒竹、そして珍しいところでは表千家で使用される「すす竹」(茅葺き屋根に骨組みとして使われる竹材が100年、200年と長い時間をかけて囲炉裏の煙に燻されて変色したもの)というものもあるそうです。中でも「すす竹」は材料を買い付けても炭化が進むなどして難がみられることも多く20%ほどしか商品化できない為、高級竹材とも言われています。そんな竹の種類と、形のバリエーションによって現在は約120種類ほどの茶筅が使用されているとの事です。
ちなみにいま日本国内で販売されている茶筅の約7割は中国製のものなんだそう。ただし茶筅作りの技はホームビデオが流行った昭和50年頃に旅行客が撮影したものが流出したことがきっかけで中国などにも広まったと言われており、職人からの手取り足取りのレクチャーではなく、まさに見様見真似と推測されています。素人の私が見る限りではよく似た形に出来上がっているように見えるのですが、竹の種類や乾燥などの下処理にかける時間、茶筅の美しい1本1本のカーブの削り方が全く違うとの事。中国では茶筅を作る生産者がお茶を点てることもないであろうと想像するに、ぱっと見の形は真似できていても、いざ使用してみると折れやすく、口にする飲料を作る際に使用する道具として正しい材料で加工されているかなど問題点や不安などが全くないとは言い切れません。

奈良県生駒市 和北堂 谷村丹後

作法をきちんと学ぶも良し 生活にカジュアルに取り入れるもよし

お茶=「お茶を点てる」手もとのシーンを思い浮かべる私ですから茶筅は茶道具の中でも代表的な道具だと認識していました。茶筅=抹茶と言っても過言ではないほどなくてはならない道具だと今回の訪問後の今でも私はそう思います。
ところが先述の通り流派やお椀の形によって茶筅の種類は変わりますが、いずれにせよ茶筅は消耗品という位置づけで、お茶会で記される「茶会記(使用する道具の作者などを書き留めたもの)」に茶筅や茶巾は表記がないんだと言います。
すべて職人の手作りで1日15本から20本ほどの生産数だという、丁寧に丹精込めて作られる茶筅。消耗品と言えども、お茶を点てる際のマストアイテム、そしてその出来によって泡立ちなどが大きく左右されそうなもの…。どこの誰がどんな技をもって作っているか、一番知らなくてはいけないような気もするのですが。そんな風に思うのは頭でっかちな私だけでしょうか⁉

そんな頭でっかちな私が今回の取材で目からうろこだと思った事。それは海外のO-CHAブームから現代の日本人が逆輸入的に学ぶべきポイントについて。自宅でカジュアルに楽しむ抹茶もあり!という事です。確かに「抹茶をいただく」には着物を着て、作法を心得なければ恥ずかしくて口にすることができないと考えがちでした。しかし抹茶は今や「余すところなく栄養をいただける健康的な飲み物」として海外では評価されています。そんな海外ではエスプレッソマシーンで泡立てていただく人もいるんだとか。茶筅の造形美からアートピースだと認識している方もいるかもしれません。そんな風に肩の力を抜いて、3時のおやつの準備ついでにキッチンで抹茶を点ててみるのもいいのでは?もともと抹茶の味は大好きな私。和菓子を緑茶でいただくこともたまにありますが、抹茶ならばそのおやつもさらに素敵な時間になりそうですよね。
初心者だからこそ「平成のアルチザン」が作る丈夫でしなやかな茶筅で一服楽しんでみたいと思います。

お茶を点てる時に頭をよぎる歌はおそらく…
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3.2.1 茶 hoooo!!
めっちゃ抹茶で茶道茶道
茶道茶道めちゃくちゃ抹茶
――――エグスプロージョン「千利休」――――――



今回訪問させていただいた和北堂 谷村丹後の茶筅造り体験ツアーはこちらから


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