よろずを継ぐもの

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九重本舗玉澤「霜ばしら」

お菓子の史
第17話
2024.3.29
ある日、夜が明けてまもなく、国道の温度計には1℃凍結注意と表示されていました。こんな時間のキーンという静けさと寒さも、この冬最後かもなぁ‥そんな風に冬の名残惜しさを楽しみながらポケットにしっかり手をつっこんで白い息を吐きながら駅へと急ぎました。
小さな頃の冬の記憶、新しいものに触れるわくわく感や季節限定のお楽しみ、珍しい体験など。大人になってそんな経験がなくなったわけではないのですが、子供の頃のそれはまるで両親が撮影してくれたホームビデオを見るように今もなお明確に思い出すことが出来るのです。
冬のとっても寒い日の朝、小学校へ向かう途中で幼なじみに教えてもらった霜柱。「踏んでみなよ!すごいから!!」とうながされて、少しだけ白い何かが見え隠れしている土の盛り上がったところを恐る恐る踏んでみる。
靴を履いていてもわかる、ザクっとた感触。それだけの事なのに、今もその時の感触を足の裏に感じることができるような不思議な感覚。雪がうっすら積もったこの冬、雪掻きされて道の横に連なる雪の塊を踏んだ時、霜柱はもっと貴重で繊細だったなぁとそんな事を思い出したのです。
そんなに寒い土地ではなかったからそこらへんに霜柱を見ることができたわけではなかったのに、見つけた霜柱を譲ってくれた幼なじみが共有したかったその体験は今も私の胸の奥の方に居るよと伝えたいな、でも向こうはそんな事もう忘れているかもしれないな‥。

九重本舗玉澤「霜ばしら」
なかなか買えないというプレミア感と絶対的な繊細さ

ここ数年SNSなどで話題を集めている「霜ばしら」というお菓子をご存知ですか⁉︎
10月から4月の冬季限定、さらにネット注文もほんの数分ですぐSOLDOUTになるため入手困難でも知られている宮城県仙台市九重本舗玉澤から発売されているお菓子です。
霜柱のとても繊細で強烈な記憶を心の思い出ボックスにひっそりと大切にしまってあった私は、「霜ばしら」のASMR動画ではじめて見た時からずっと気になっていました。マイクを通したサクサクとした音、冬季限定でなかなか手に入らないという私の霜柱の記憶そのもののようなお菓子。
たまたま注文できた時は決済画面で心臓がばくばくし、注文が通ると思わず声を上げてしまいました。なんせ一昨年は全くタイミングが合わず、今季もそろそろ発売されているはず〜と何度か通販サイトをチェックするもなかなか販売中の表示に出会えずでしたから。
それはもう通販でそんなドキドキする事ありますか?というぐらい。

九重本舗玉澤「霜ばしら」
見た目はもちろん、食感と音まで再現度の高いお菓子

白い缶にアイスグレーの畳のようなイラスト。
蓋を開けるとらくがん粉が缶いっぱいに入っていて、その中に繊細な飴細工の「霜ばしら」が縦に敷き詰められていました。
パッケージのデザインから缶の中の様子まで本当に繊細な霜柱そのままのようで、箱入り娘のような様です。
いざ口へと運ぶと以前見たASMR動画同様にサクサクと音をたてながらあっという間に溶けていく「霜ばしら」。
ほんのりと甘く味も見た目も控えめな「霜ばしら」。
噛まずに口の中で溶かしてみても余韻のような甘さを残してふわっと消えてしまう「霜ばしら」。
こんなに繊細な口溶けがゆえの冬季限定なのでしょう。
湿気や衝撃、熱に弱い繊細な飴菓子の「霜ばしら」は限られた気候条件の中でしか生産できず熟練の職人さんの丁寧な技をもって手づくりされているため量産が難しい幻のお菓子と言われています。

九重本舗玉澤「霜ばしら」
先人たちが考案してきた砂糖菓子たち

飴の繊維という点で韓国のクルタレ(龍のひげ)も似たような感じなのでしょうか⁉︎ クルタレは蜂蜜が原料の飴を16000本まで伸ばし、ナッツなどを包んだという韓国の伝統宮中料理のひとつで「王様のデザート」などとも呼ばれているそうです。見た感じは綿飴のようにも見えるのですが、冷凍すると食感がサクッとすると言っている方がいるのでそちらも是非試してみたいなと思いました。

さらに調べていると「霜ばしら」の原型となった「晒よし飴」というお菓子に辿り着きました。元禄7年に伊達家の家臣 臥牛城主 石川公の御用菓子司「市場家(いちばや)」が作ったもので、殿様より珍しいお菓子作りを命ぜられた職人が大沼のほとりで目にした葦をみて閃いたといいます。一子相伝、秘伝の製法を代々受け継いで今に至る「晒よし飴」もまた冬季限定で、こちらも人気で入手困難が続いているようです。「霜ばしら」は晒よし飴の技法を用いて、大正~昭和期の趣向に合わせてくちどけや大きさなどを改良したものなんだそう。いつか晒よし飴と霜ばしらの食べ比べが叶うなら、雪景色を眺めながら暖かいお茶と一緒に‥。
「霜ばしら」について口コミにはその入手困難さから、なかなかきつめのコメントも見られますが、貴重なお菓子「霜ばしら」の控えめで鮮烈な魅力をいつか体験してみてほしいです。
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