よろずを継ぐもの

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京都丹後 山藤織物工場

もの作りの現場から
第2話
2023.7.24
京都府の日本海側、日本三景のひとつで、あまりにも有名な天橋立の近くに位置する与謝野町。生まれてはじめて訪れたこのエリアは一歩降り立っただけでも「歴史と格」が息づくどっしりとしたまち‥といった印象でした。
今回は与謝野町のもの作りの歴史と試行錯誤、守り抜くべきものと、進化するもの。現代においてもの作りの現場のあちらこちらで聞こえてきそうな、そんな大切なお話しを伺う事ができました。
レジ袋有料化によりエコバックをあたり前のように持ち歩くようになったいま。日本で古くから重宝されてきた風呂敷が見直されてきていると聞きました。礼儀作法に不安を覚えがちなアイテムですが、「ものを包み運搬する」のに使用するのが本来の用途。火事が恐れられていた江戸時代、庶民は鍋釜や布団を素早く持ち出せるように布団の下に風呂敷を敷いて寝ていたともいわれています。美しい風呂敷を布団の下に…と少々戸惑ってしまいそうですが、あくまでも使い方は自由という点では袋状に縫われているエコバックよりも変幻自在、必要な時に必要な形でものを包むことができる万能アイテムと言えます。そんな風呂敷にも多く使われる「丹後ちりめん」という素材を聞いた事はありませんか⁉

京都丹後 山藤織物工場

綺麗な水の流れるまちに多い繊維の産地

京都府丹後地方は全国でも珍しい絹の生産を一気通貫している生産地です。養蚕、製糸、製織、染色など工程ごとの分業が当たり前の絹の生産は、桑の葉が豊富なまち、水の流れを利用できる川辺などそれぞれに適した要件を満たすエリアで発展してきた産業です。そんなそれぞれの要件を全て満たすこのエリアの「丹後ちりめん」はちりめんの代表的存在として有名です。その歴史は古く約300年前の江戸時代に絹屋佐平治らが京都西陣より持ち帰った技術をもとに創織した「ちりめん」がはじまりといわれ、日本最大の絹織物の産地として、今も着物の生地の約6割を生産、まさに日本の着物文化を支えてきた地域と言っても過言ではありません。
とはいえ和装の流行り廃りや事業継承の課題など、様々な困難や問題を乗り越えながらこだわりの部分を守り抜いてきたと教えてくださったのは山藤織物工場の社長、山添 憲一氏。
全盛期には関連する工場などが本当に多く立ち並んだまちも、その件数は減る一方で、追い打ちをかける日本の高齢化、後継問題などはこのまちも例外ではないと言います。
しかし、道中見かけた街並みは古き良き建物を使いやすくリノベーションしたおしゃれな施設や、きれいに整備された大きな公園など、子育てファミリーにはもってこいの環境の様にも見えました。多様な価値観のもと、自然豊かで歴史的価値のある真面目なもの作りなどの地場産業が根付いたこのようなエリアは今まさに注目されつつある様に思います。

京都丹後 山藤織物工場

1833年創業 180年以上つづく確かな技術と信頼

「日本国内で生産される生地の中で、他国では真似のできない生地が少しだけある」そう教えてくれたのはこの連載の第1回で伺った京都伏見の馬場染工場の馬場さんでした。
その他国では真似できない生地こそが今回もの作りの現場を拝見した「縮緬(ちりめん)」です。糸を撚り、織ったのちに精錬する事でできるしぼ(凹凸)が特徴的な素材で、絹を原料とした高級ちりめんは昔から友禅染などに使われ着物や風呂敷などとして流通していったのです。

今や日本の伝統的なもの作りや、他国では見られない商品とその技術に世界が注目をしているのはご存じのとおりだと思います。「侍・忍者」といった現代の日本の日常には見られない物ではなく、日々私たちが見て触れて利用しているものの中で、日本ならではのもの、世界に自慢のできるものがたくさんある。それらのすばらしさを上手く世界へ発信していく事で、守るべき技術や文化を次の世代へ継承していくこととなるような気がしてなりません。

京都丹後 山藤織物工場

工場の片隅にあった手機の機械

日本の繊維工業の事業所数はこの15年で半分以下になったといいます。(*1)SPAやファストファッションが勢いにのっていった頃、国産繊維メーカーの中国やベトナムなどへと工場移設が相次ぎ、クイックな生産と労働コストの安さを追い求めていきました。しかしここ数年でその潮目も大きく変わり、サステナブルな取り組みが重要視されたことで、効率的な生産背景よりも⼈権を守るための法令整備が進展し、人権・環境にきちんと向き合わない企業などはSNSなどで晒されて炎上、不買運動にまで発展するケースも出てきました。だからこそ一朝一夕ではどうにもならない本当に大切なこと、丁寧なもの作りと生産者の明確な意思、そしてその土地の文化に焦点があたる時代となっているのだと思います。

そんな時代ごとに変わりゆく時の流れに踊らされることなく、どっしりとした構えで機織り機の音を響かせる山藤織物工場。与謝野町の自然豊かな街並みと歴史、山添社長の軽やかなお話が、すぅっと心に響く贅沢なひと時でした。



今回訪問させていただいた山藤織物工場のホームページはこちら

(工場見学をご希望の方はホームページ記載のお電話番号でお問い合わせ下さい)

*1参照:経済産業省「繊維産業の現状と2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)の概要」
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