よろずを継ぐもの

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鎌倉紅谷「クルミっ子」

お菓子の史
第11話
2023.7.18
昔のように連続ドラマを見ることがめっきり減りました。それでもここ数年で働き方改革が浸透し帰宅時間が早くなったおかげか、年に2~3本、見逃し配信も頼りながらドラマを完走できるようになってきたと思います。各社が結構な費用をかけて制作し、その時々の時代を反映したメッセージを投げかける、そんな映像作品を極力見たいと思っていますが、1本2時間前後の映画と違い、ドラマとなると私にとってはなかなか難易度が高く、しり込みしてしまいがちです。
皆さんは3年前に放送された『おカネの切れ目が恋のはじまり』というドラマを知っていますか⁉三浦春馬さんが亡くなる前日まで撮影に臨んでいたといわれており、遺作として放映するために急遽8話構成から4話完結へと脚本が書き換えられた異例中の異例のドラマです。本作の「清貧女子VS浪費男子」というテーマは、物や情報に溢れる時代に「清貧」という「侘び寂び」に通ずる日本で古来より脈々と受け継がれてきた精神的な豊かさを尊ぶ価値観を取り上げています。たった4話で終わってしまったのが残念なくらい、毎回清貧の学びを得ていたにもかかわらず、ついついドラマの影響で私が購入したもの、それがこのドラマに登場した豆皿と、お菓子です。

鎌倉紅谷「クルミっ子」

胡桃には目がないので

当初この「お菓子の史」は「胡桃日記」という私の好きな胡桃を使った食べ物を紹介していく連載にしようと思っていました。そしてその企画の中で1番書きたかったのがこの鎌倉紅谷の「クルミっ子」です。ドラマで松岡茉優さんが長蛇の列に並んでひとつだけ購入した「クルミっ子」を食べて「良き」とつぶやく。それを見た瞬間、これは食べて見なくちゃ!と興味をそそられました。
食べてみると想像以上に私好みでキャラメルにバターの風味、そしてごろごろ入っている胡桃…。
このお菓子との出会い以降、お土産で何度かいただくこともありそれまで出会えていなかったのが不思議なくらい勝手にご縁を感じるお菓子です。

鎌倉紅谷「クルミっ子」

2008年のパッケージ変更が転機

鎌倉紅谷のルーツは戦前、神楽坂にあった和菓子舗紅谷だそうで、戦後腕利きの職人たちがその看板を背負って全国各地で新しい紅谷を開いていったそうです。そのひとつとして1954年に創業された菓子処紅屋が今日という日まで進化を遂げながらつながっているそうです。
現在のクルミっ子はリスの可愛らしいパッケージも人気ですが、調べていると以前は老舗和菓子屋らしい渋めのパッケージだったというエピソードが出てきました。パッケージ変更以前は「鎌倉殿」こと源頼朝の絵が描かれていたそうです。本店が鶴岡八幡宮の目の前という事もあり先代の思い入れも強かったそうですが、パッケージ変更により若い世代のお客さまも増え、売上も10倍以上になっているとの事。そう、ドラマで描かれていた通り行列ができるほどの人気で、全国の百貨店でたまに見かけたときには必ず買ってしまうくらい貴重なんです。福袋も数量限定で発売されているようなのですが、なかなか購入できず…来年の福袋こそは!と今から意気込んでいます。

鎌倉紅谷「クルミっ子」

スイスの「エンガーディナー」という伝統菓子がヒント

3代目社長の取材記事を読んでいると、他のお菓子の生地の残りを再利用するために2代目社長が考案したクルミっ子の話をされていました。スイスの胡桃の名産地「エンガディン地方」に由来するバタークッキーで生キャラメルと胡桃をサンドした「エンガーディナー」というお菓子をヒントに作られたそうです。調べてみると日本のケーキ屋さんなどでも「エンガーディナー」を名物としている人気のあるお店があるようです。胡桃の名産地が名前の由来とあって胡桃入りはほぼ確定!という事で、まぼろしの「胡桃日記」の次なる探訪が見えてきました。
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