よろずを継ぐもの

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京都伏見 馬場染工場

もの作りの現場から
第1話
2022.8.26
スーパーに並ぶ切り身魚のパックを見慣れているせいで、魚の丸物がイメージできない子供が多いと聞きます。近頃の子供は…なんて声が聞こえてきそうですが、身のまわりのあれやこれ、何からできているか、どんな風に作られているか?私は知らないことだらけです。作り手への感謝と尊敬を込めて、改めてもの作りの現場を見てまわりたいと思いました。
京都市伏見 馬場染工場

「もの作りの現場から」初回となる今回は、大正2年創業、型染め工場の馬場染工場(ばんばせんこうじょう)。昔と変わらない製法の伝統ある風呂敷の制作を見学させていただきました。
京都駅から15分足らずの閑静な住宅街を行くと、趣がある合掌作りの瓦屋根の工場が見えてきます。周辺には比較的新しい一軒家が立ち並び、どことなくのんびりとした日常が感じられるなか、この敷地内だけがすっぽりと厳かな雰囲気に包まれているように見えました。そんな雰囲気に少し緊張した面持ちで建物へ入っていくと馬場染工場四代目の馬場憲生さんが明るく出迎えてくださいました。

京都伏見 馬場染工場

風呂敷は2辺しか縫われていない

「本当の風呂敷は4辺ではなく2辺しか縫われていない。本物を知る人からは、4辺縫われているのは風呂敷ではないと言われてしまう」馬場さんからそう聞くまでまったく知りませんでした。が、事前に手にしていた風呂敷を確認すると確かに2辺のみ縫われていて、左右2辺は生地の耳のままでした。とここで、耳の端ぎりぎりまで丁寧に染められていることに気が付き、整然と台に地貼りされた生地を見ながら、ひとつひとつ繊細な職人技の積み重ねで商品が出来上がっていることを強く感じとることができました。
大判の生地の真ん中に機械でばーんとプリントして切り抜き4辺を縫えば、ものすごいスピードで大量生産ができますが、いまや環境負荷が高すぎると言われる繊維産業においてこのやり方では切り落としのロスも大量に出てしまいます。耳の端まできれいに染められた風呂敷は、手捺染の高い技術の証でもあり、ロスも少ない。なるほど、昔の人は本当に物を大切にしながら技術を磨き、より良い物を作ろうと鍛錬してきたのだ、と教えられ思わず感動してしまいました。

京都伏見 馬場染工場

整然と並ぶ道具から感じ取れる、時間の積み重ね

現代的な生産へシフトすることはできるが、一度そうしてしまったら伝統的なもの作りを復活させることは難しい。それは、風呂敷が様々な工程を踏んで出来ている事、そして工場で使う様々な道具を作る人あっての職人技であると事。シルクスクリーンの版をはめる木枠や、染料を生地に置くための掻きベラ、そのような道具の数々が計算されつくした、職人にとって使いやすく繊細な手さばきになじんでくれる品だという事なのでしょう。
細かく数値が書き込まれた色の調合表、上下左右まっすぐに台にはられた地貼り、一気に染め上げられていく捺染と無駄のない動き。まさに職人のなせる業に目を離せない、そんなひと時を過ごさせていただきました。工場長の児島さんの版を移動させるときのピリリとした目線と、流れるような一連の動きは何時間でも見ていたいと思うほど美しい動作でした。
京都伏見 馬場染工場

「包む」風呂敷の用途は幅広い

風呂敷と聞くと、どこか和服の女性が畳の部屋で正座をし、手土産を風呂敷からスッと出す、私はそんなイメージがパッとわきます。もともとは風呂に入る時に衣装を包む用途として使われていた布が由来とされていますが、現代のイメージでは慶弔、祝い事の贈りものを包む布といった意味合いが強いのかもしれません。「包む布」という意味でとらえれば、使い方は無限大、マナーもへったくれもありません。馬場さんがおっしゃられた「風呂敷はインナーバッグとして、巾着のようにラフに使ったって良い」という言葉を聞いて、かしこまらずにどんどん使い倒せばいいんだ!と目からうろこが落ちる気がしました。
これからはちょっと便利なサイズのマルチクロスと捉えて、バッグに1枚入れておけばエコバッグやバッグオーガナイザー、急な雨、軽い日差しや冷房除けにだって役に立ちそうです。勝手に敷居の高い物と認識してしまっていた日本の便利アイテム風呂敷。SDGsが叫ばれるいま、エコバッグとしてだけではなく、多用途な布として是非活用したいですね。
そんな伝統を守るだけにとどまらない、馬場さんの革新的な視点と柔軟性は、誰もが知る外資ブランドやデザイナーとのコラボレーションの数々で惜しみなく発揮されています。
自社のもの作りを知ってもらうためのオリジナルブランド展開や、風呂敷の定番素材のみならず洋服に使われる素材など染められるものは何でも試してきたそう。伝統継承と共に進化する職人技、そして可能性を広げるための広い視野が見据える明るい未来は、馬場さんの眩しいくらいの笑顔がもの語っているように見えました。




今回訪問させていただいた馬場染工場のホームページはこちら
(工場見学をご希望の方はホームページよりお問い合わせ可能です)
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