よろずを継ぐもの

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言霊

寺社の掲示板
第2話
2022.7.29
咄嗟に口から出る言葉まで神経が行き届いているかと言われると全く自信がありません。思わず言ってしまう言葉、頭の回路を通らずに、腹の底からポロリとこぼれてしまうそのひと言に、あとあと後悔し悶々としてしまう夜はありませんか?
言葉とは人類が獲得した最高の武器であり、進化のうえで最も重要な基盤であるといわれています。言葉がなければ歴史を語ることも、自然や他の生物について研究を重ね、語り継ぐこともできません。単なる音としてだけではなく、それぞれの意味や解釈、経験をもとにした連想まで、活動における創造性を飛躍的に広げたといっても過言ではないでしょう。 そんな言葉というものが当たり前のように存在する現代において、SNSなどの浸透により誰もが発信者となりうるかたちで、リアルで対面していない、個人情報が明かされていないなどの背景からか他者を言葉の刃で傷つけるといった問題が浮上しています。

実際に最近のニュースでは芸能人やアスリートなどから誹謗中傷で苦しんだというエピソードが聞こえてきます。「俺理論」とも呼ばれるその人の正しさ、正義を主張し、憤りをそのままに発信してしまう。正しいと思っているからこそ、口調がとげとげしくなったり、やさしさを欠いたコメントを発信してしまったりと、なかなか厄介なようです。ある意味便利なSNSを介して本人に言葉の刃が届いてしまういま、対象者の心を徐々に蝕んでいく…そんな負の連鎖が毎日、膨大な投稿としてタイムラインを流れているのです。

言霊


東京都渋谷区 長安寺の掲示板より

そんなSNSの負の要素が取り沙汰される中、外苑前のお寺の掲示板が目に飛び込んできました。長安寺の掲示板には、スクリーンの妖精と称されるオードリー・ヘプバーンの名言が書かれており、美しくあるためには美しい言葉を使い、他人の美点を見つめなさいとありました。それは古代の日本人が信じていた「言霊」に近い意味合いに感じられ、つい、うっかり腹の奥底の言葉が口からこぼれてしまい、夜な夜な後悔することの多い私にとっては必要な、大切な教えのように思えました。
自らが発する言葉には霊が宿り、その霊力により発した言葉が現実になるという意味の「言霊」という言葉を最近よく耳にするのも時代が必要としている教えだからなのでしょう。内から外へ発信された言葉には言霊が宿り、その言葉の刃や優しさはきっとまわりまわって自分へと帰ってくる…そんな大切なことを改めて再確認しようという人が増えているのだと思います。
つまり使う言葉、発する言葉はその人の思考や行いにも大きく関与し、その積み重ねで、良くも悪くも未来が紡がれていく、そんなイメージでしょうか⁉だからこそ自分の言葉にはできるだけ敏感に、そしてよくよく考えて言葉を発していきたいなぁと自戒の念を込めてここに書き留めておこうと思います。

言霊


兵庫県神戸市 日法寺の掲示板より

中国の孔子は、自らの発言が誰かを傷つけたり困らせたりしないようにと、ひと言発するのに9度考え直したといいます。日法寺の掲示板ではじめて知った言葉でしたが、感情に任せた暴言が相手を傷つけ、自分をも滅ぼす。なんとなくこの数年を見ても、失言で謝罪する政治家、辞任、辞職せざるを得なくなったお偉方が何人かいらっしゃいましたね。相手を思いやり、心を温められるような言葉を大切にする人に少しでもなれるように、日々心掛けていきたいなぁと思います。
自分の言葉で話すということ

少し話はそれますが、私がまだ20代のころに恩師にかけていただいた大切な言葉の数々に、今でも思い出す、こんなひと言がありました。

―自分の言葉で話しなさいー

プレゼン後にいつも優しく声をかけてくれた恩師からよくそう言われたものでした。
当時はプレゼンテーションの緊張と集中のあまり、終わった後も頭がふわふわしていて、プレゼン中の記憶も曖昧といった状態でした。そんな状態だからこそ、無意識に他者から影響された借り物の言葉が知らず知らずのうちに口からこぼれて、それは人から見ると簡単に見透かすことのできるペラペラの言葉だったのだと思います。

人前で話をしても多少冷静さを保てるようになったいま、それでも当時同様、他者からどう見えているか、私の言葉がどう聞こえているか?については話している張本人である私はわかりにくい。だからこそ、若い時に教えていただいた事、そのひとつひとつを心の中でなぞり、おまじないのように大切にしています。


私自身の言葉で
出来るだけわかりやすく
早口にならないように…
言霊を信じて、やさしさに溢れる言葉を紡いでいけたらと思います。
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